アリアの箱庭 ~The Miniature Garden of Aria~



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「やあ久しぶりだね、相中刃君」
「久しぶり、とは言っても5日ぶりですけどね、誠さん」
「おや、そんなに短い間だったかな? 一ヶ月ぶりくらいだと思ったよ。ゴールデンウィークは長かったよ。君に会えなくて死にそうだった」
「大げさですね。そんなに長い間会わないわけないでしょう」
「そうかい? それにしてもボクは君のことをフルネームで呼んだんだから同じようにボクをフルネームで呼んでくれよ。全く、君は心のない男だな」
「めんどくさいんですよ……成川誠先輩」
「先輩はよしてくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」
「誠さん」
「ん。いつも通りだね。ボクとしては、もっと親しみをこめて呼んでほしいのだけれど……」
「これ以上は遠慮します」
「そうかい。ま、そのうち頼むよ」
「はあ……」
「どうした、名前が泣くぞ」
「はい?」
「せっかく刃という名前を授かったのだから、言葉は歯切れよくしたらどうだ」
「名前と言葉は関係ないでしょ」
「そうでもないと思うよ。名は体を表すって言うし」
「ならその諺は間違いなんじゃないですか」
「先人の知恵に間違い云々言う気はないけど、人によりけり、もしくは場合によりけりかな」
「場合ですか」
「うん。涼って名前の人がクールだったら、まさに諺通りだよね」
「まあ確かに」
「名前関連で言えば、ボクの名前だっておもしろいと思うよ」
「といいますと?」
「名字に言偏をつけると――誠と訓になる。そして、誠を訓読みすると?」
「マコト」
「その通り。いやあ、仕組んだとはいえ君に名前を呼び捨てで呼んでもらえて嬉しいよ」
「……なかなか面白いですね。先輩のご両親は、それを考えて?」
「いや、それはないと思うよ。だってボク、捨て子だもん」
「そうでしたね」
「うん。一緒に置いてあったメモに、名前があったらしいね」
「それで、今のご両親に引き取られたと」
「そうだね。ボクが3歳のころに今のお父さんとお母さんに引き取ってもらったね」
「その時から、成川誠ですか」
「その通りだよ。君は変だよね」
「いきなりなんですか」
「普通、捨て子とか会話の中で出てきたら引くでしょ」
「いやいや、何回聞かされたと思うんですか」
「んー、8回くらい?」
「自覚ありですか。それだけ聞かされたらさすがに飽きます」
「飽きるとか言うなよ。君は心のない人間だな」
「いちいち、人のことを心ないとか言わないでください」
「事実じゃないか」
「それも慣れましたけどね」
「やめてくれよ。ボクがいつも同じことしか言ってないみたいじゃないか」
「いや、事実ですよ」
「まあ、その通りだけどね。じゃあここで閑話休題」
「はあ」
「ゴールデンウィーク明け早々遊ぼうじゃないか」
「別にかまいませんけど」
「ふふ……何して遊ぶ?」
「話振っておいてそれはないでしょう」
「そうかい? なら、言葉で遊ぼう」
「結局、いつも通りですか」
「やっぱり、久しぶりだからね。ライトなのでいこうよ」
「はあ」
「仲間断る」
「アナグラムですか。……ナルカワマコト、ですか?」
「正解」
「天文学者」
「おや、有名どころを引っ張ってきたね。月を見つめる者だね」
「やっぱり分かりますか」
「当たり前だよ。英語のアナグラムは意味があるものがあっておもしろいからね。じゃあ次、カヌーはどうかな」
「……海ですか。水に関連するのが乙ですね」
「だね。アナグラムは、その文字数によってパターンが決まるけど、必ずできるとは限らない。選ばれた言葉しか成立しない。例えば、たったの5文字でも120通りあるけれどその中で、意味をもった言葉ができるとは限らないからね」
「まさしくアナグラムですね」
「――偉大なる芸術、か。上手いこと言うね」
「たまには僕もやりますよ」
「お、そんなに調子に乗って大丈夫かい? 11と2を足してみよう」
「はい?」
「おや? 早くも天狗の鼻を折ったかな?」
「11と2、11と2……」
「足してみるがヒントだったり」
「あ、なるほど。12と1を足すんですか」
「わかったか。でも、今のはヒントありだからね」
「まだ、誠さんには敵いません」
「まあね」
「僕の部屋って汚いと思いますか?」
「ん? ああ、学生寮でないならどちらか判断付かないね。第一、ボクは君の部屋に行ったことないからそもそも判断付かないしね」
「隙がない」
「まだまだ甘いね。こんなのはどうかな。悪に耳を傾けるかい?」
「つつしんで遠慮します」
「普通に返すなよ。これもアナグラムだよ。ただ英語だから訳し方次第だけどね」
「……黙って生きます」
「懸命だね。正解」
「組み合わせってありですか」
「結構無理やりだけどね。分かればいいんじゃない。どうせボクと君の二人が分かればいいから」
「それは、まあそうですね」
「二人だけにしか伝わらない言葉だぜ。もっと喜びなよ」
「喜ぶほどのことですか?」
「君は言葉に切れがないけど、ボクの心は見事にぶった切ってくれるね。困った鈍刀だ」
「人を刀扱いしないでください」
「悪かった、鈍い刃にしておこう」
「もっと酷くないですか」
「鈍いのは事実なんだから許容しなよ。心がないなぁ」
「鈍い?」
「ああ、君に心があれば、想いはあるし忠実だろうし、もっと忍ぶだろうね。もっと我慢強くボクに従って欲しいね。後輩なんだから」
「僕の名前で遊ばないでください。それに後輩だからって誠さんに従うわけじゃないです」
「それもそうだね。従わせたりしないさ。でも、本当に心がないな。そんな君には心のこもった言葉を上げよう」
「はい?」
「愛してる」
「本気ですか?」
「ボクは本気だよ。変な一人称で、言葉遊びが大好きな変わり者の女子と仲良くしてくれる心ない男子は君しかいないんだよ。それにボクの気持ちに気付いてないなんてやっぱり鈍いなあ」
「はあ……」
「嫌なら断ってくれてもいい。それでも構わないよ。どちらにせよ、この先もボクは君と遊ぶのだから」
「……いいでしょう。誠さんの"心と言葉"を受け取りましょう」
「本当かい?」
「誠さんが本気なのに、僕が冗談言ってどうするんですか」
「そうか。心が伝わるとはこんなにも嬉しいことなのか」
「何言ってるんですか」
「そうだ、君はボクから心と言葉を受け入れたのだから今日のことを何かに書き記しておくといい」
「はい?」
「君――刃が心と言葉を受け入れる。つまり、認める」
「したためる、ですか。だから書き記すですか。わかりにくい」
「そうかな? 嬉しすぎて頭の回路がおかしくなったのかな」
「ニヤケないでくださいよ。……誠さん、もうお昼ですよ」
「おや、本当だね」
「食事でもどうですか?」
「いいね。手を、つないでいこう」
「いいですね」
「ふふ、君の手温かいな」
「あれ、誠さんともあろう人が気付かないですか」
「ん?」
「食事をする――つまり認める、ですよ」
「なんてこった一本取られたなぁ!」
「誠さんから一本とれた!」
「でも、ボクの台詞を無視してそのことを伝えるなんてやっぱり、君は心がないなぁ」


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